東京支部長挨拶

ウポポイの水辺にて
ウポポイの水辺にて

昨夏北海道の白老町にある民族共生象徴空間「ウポポイ」に行ってきました。「ウポポイ」とはアイヌ語で「おおぜいで歌うこと」を意味しています。2020年に開館し、国立アイヌ博物館のほか、アイヌ文化の体験交流ホールや慰霊施設がある大がかりな施設です。私は北海道とご縁ができて40年以上経ちますが、アイヌ民族を扱う展示はその間にも大きく姿勢が変わりました。初めて行った博物館では、鮭の皮で作った服や履物、祭祀の場の再現展示などを覚えています。その後に行った別の施設では、子供たちにアイヌ語で生活の術を教える父親といった設定の展示がありました。徐々にアイヌ民族の生活誌を詳しく扱うようになっていったと思います。「ウポポイ」は「我が国の貴重な文化でありながら存立の危機にある」アイヌ文化の復興・発展の拠点かつ「先住民族の尊厳を尊重し差別のない」社会の実現のための象徴とし作られました。しかし、その展示に添えられた説明には、どこか他人事のような表現に見えるものもあります。例えば「樺太千島交換条約」による樺太アイヌの北海道への強制移住については、詳しく知ろうとする人にしか伝わらない表現となっている気がします。民族共生を謳う以上、「ウポポイ」は主語を明確にし、都合の悪い事実も十分に伝える場であってほしいと思います。博物館はその時代の考え方を映すと同時に、展示を通じて人々に指針を示す場所でもあります。これからの「ウポポイ」に期待したいと思います。「社会科見学のできる観光施設」扱いとならないように願っています。

教育の現場でも「共生」はよく扱われますが、どうしても道徳的な側面から「みんな仲良く」という収め方をしてしまいがちです。他方で「排除ベンチ」を行政が「住民の要望に応えるために」と言って作っている現実を見ると、他者の尊厳を守る「それ以外の方法」に気づく社会を作っていかなければと思います。                                                                                    

桜蔭会東京支部長 町村茂子

 

 


都立昭和記念公園
春の花  同窓生提供
春の花
春の花 同窓生提供